ふっと薫る香りが思い出や記憶を呼び起こすことがあります。ある日突然、いつもの夜が夏の夜の匂いに変わるときや、夕暮れどきの近所に漂うどこかの家の晩御飯の匂いから、母の「晩御飯よー」と呼ぶ声を思い出したり。香りが記憶の奥底をつつき、思いもよらない時間へと引き戻される、そんなことがたびたびあります。
ホノルルの空港に降り立ったときにも「あぁ、ハワイに着いたんだなぁ」というなんとも形容し難い、懐かしい香りに包まれるとそのつど安堵したり、涙している私です。香りが人の記憶を蘇らせる効果があるかどうかは別にして、ハワイの香りがいつも家にあるといいなと思っていたおり、ハワイのセレクトショップで手にしたキャンドルがトロピカルな土地を思わせる香りそのものだったことから、すっかり日々に欠かせないものになりました。
海より山派、というルナさんが主宰する”Jules + gem Hawaii”は、ハワイ産のフルーツや花、エッセンシャルオイル、ソイワックスなどナチュラルな素材を使ったアイテムを手作りしています。そのバリエーションは豊富で、キャンドルやルームスプレー、ディフューザー、バスソルトなど。
マノアとカイムキで育ち、カメハメハハイスクール出身というハワイ生まれ、ハワイ育ちのルナさん。カリフォルニアの学校で2年ほど勉強したのち、ハワイ大学では心理学を学びました。ご主人の「幼い頃からずっとキャンドルのある暮らしをしていた」という言葉と手を動かすことが好きだったことを思い出し、ハワイの暮らしに合ったキャンドルが作れたら、と思ったことがきっかけでこのキャンドルが生まれました。「グラフィックデザイナーのアシスタントをしていたこともあったから、もともと自分で何かを作るのが好きでした。私が作る香りは、メインランドに暮らしていた時にハワイを懐かしく思っていた気持ちも込めたもの。この香りが風にのって自分にかえってくるような、そんな想いも込めています」
工房のラナイの先に広がるのはジャングルのように生い茂る、緑の森。入り口にはたくさんの花。自然を愛し、愛でているのが一目でわかる工房で、少しずつ、納得のいく素材で香りを生み出していきます。
最近はハワイから引っ越してしまった友人たちからも、ハワイの香りを懐かしむためオーダーがくるといいます。日常と旅、どちらも香りを作ることにつながっていくというルナさん。工房のデスクには思い立ったとき、感じたときに想いを記しておく、小さなノートが置かれていました。
ところで屋号であるJules + gem Hawaiiの”Jules”は次女の、”gem”は愛犬の名前。そしてハワイ産の植物や果物を使ったコレクションの名前は、長女の“Victoria”からとったシリーズを展開。この工房から生まれるものは、ルナさんが愛してやまないものが詰まっていました。
このキャンドルに出会い、思い出した香りがもたらすリラックス効果と、蘇る記憶。Jules + gem Hawaiiの香りがあれば、いつだって夏の余韻と、ハワイの空気に再会できるのです。
<2019/08/01の情報です>

- 赤澤かおり
- フリーライター&編集者。海の近くで暮らし、ハワイを旅すること、鎌倉や京都を中心に飲んで、食べる、作ることをライフワークとする。ユーズドのアロハシャツをワンピースやサーフパンツ、バッグなどにリメイクするブランド「Aloha Tailor of Waikiki」を主宰。ハワイに関する著書は共著を含め12作。近著に「HAWAIIAN PRINT BOOK」(ちくま文庫)。初の選曲とライナーを担当した、70年代・ハワイアンミュージック・コンピレーションアルバム「Da Aloha Music Mele Through HAWAIIAN PRINT BOOK」も。ハワイでのプライベートな日々を綴ったガイドエッセイ「Hawaii note」が好評発売中。